目次
進撃の巨人

進撃の巨人 進撃の巨人
 
Vol.02 ジャン・キルシュタイン&ベルトルト・フーバー
 
空から落ちる雨粒が、ひとときの会話を紡ぐ。今日もどこかの空の下、《雨》が繋いだ、小さな絆の物語。

 大粒の雨が山肌を流れ、川となって岩の隙間を駆けていた。
「ったく……お前が今朝、華麗なポーズ決めて寝てたから大雨になったんだぞ、ベルトルト」
 崖の中腹に張り出した岩の下、雨をしのげる高台に、ふたりの訓練兵が身を潜めていた。
「……ごめん、ジャン」
「本気にするなよ!」
「……しかし、視界が悪すぎだ」
「この天候で小休止するのは、行軍訓練の判断として正しいと思う」
 岩の奥、雨のかからない場所で膝を抱え、ベルトルトは身体を休めるのに集中している。
「確かにな」
 彼の傍に歩み寄ったジャンは腰を下ろし、からかうように相手をつついた。
「最初は無口でつまんねぇ奴と組になっちまったと思ったが、お前、優秀だもんな。信用するぜ」
 ジャンなりの褒め言葉にも、ベルトルトは困ったように微笑むだけだった。

 雨足は、弱まる様子がない。
「あー……なぁベルトルト、お前も憲兵志望だったよな? 内地に行きゃあ、こんな山ん中で雨に震えることもねぇよな」
 沈黙に耐えかねて軽口を叩くジャンに、ベルトルトはぽつりと呟く。
「……僕なんかが、内地に行っていいのかな」
「はぁ!? 十分だろ、その成績なら! 俺より上位のくせに、自信ねぇのかよ!」
 ふるふるとかぶりを振って、ベルトルトはきつく膝を抱く。
「僕には、自分の意志がない。憲兵を目指すのも……ただ、流されて」
「そんなもんだろ」
 マルコみたいな優等生もいるけどよ……と、ジャンはため息をつく。
「憲兵みたいな、安全で良い暮らしがしたいってのは、人間の本性だろ。流されて何が悪い? しかもお前は、実力で手に入れるんだ。胸張れよ」
「(……励まそうとしてるんだ。仲間として、認めてくれて……)」

 ややあってベルトルトは顔を上げ、立ち上がった。上の岩から流れる小さな滝に近づき、目線を落とす。
「(僕は……信頼を受けるに値するんだろうか)」
 足下の水たまりでは、彼の複雑な感情を映すように、泥や木の葉が泡立って混じり合い、渦を巻いては、さらに低い場所へと流れていく。
 絞り出すように、彼は言った。
「ごめん……ありがとう、ジャン」
 それは心からの感謝であり、同時に謝罪でもあったが、ジャンはその真意を知ることはなかった。
「ああ? 礼を言われるようなこたぁ言ってねぇよ。それより、天気は?」
「行けそうだ。小降りになった」
「森を進もうぜ。崖は地盤が脆くなって、アンカーが安定しねぇ」
 冷静な分析に、ベルトルトは微笑んでみせる。
「さすが、立体機動に定評のあるジャンだ」
 頷き合って、一斉に立体機動装置の柄を抜く。
 一瞬の後、ふたりの少年は雨具を翻し、降り止まない雨に霞む森へと飛び去っていった。
(了)

Vol.01 リヴァイ&モブリット
Vol.03 ミケ&ゲルガー

※本サイト内の画像及び文章の無断転載・無断利用を禁じます

TOPへ