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Vol.07 リヴァイ
2017.09.21 Updated.
夢は心の写し鏡だと、誰かが言った。
残酷な世界に立ち向かう人々がみる夢は、つかの間の安らぎか、胸に抱える昏い深淵か

 「皆、何かに酔っていなければ、やっていられなかった」と、自分を育てた男が言っていた。
 彼は、自身の「力」に酔っていたという。その後、壮大な「夢」を掲げることで、組織を率いていた。夢を信じさせることで、多くの人間を動かした。
 リヴァイは似たような人物を知っていた。出会ったばかりのころ、彼
エルヴィンは、純粋に人類のため、崇高な目的を掲げ、戦っているように見えた。実際、そのように生き、多くの仲間を惹きつけていた。
 徹底して現実的で、非情とさえ受け取られかねないエルヴィンの作戦だったが、結果を伴っていたし、リヴァイはその点で彼を信頼していた。
 しかし、そんなエルヴィンでさえ、最期の意識が混濁した状態では、子供のころの夢をみて逝った。
 夢とは、こうして人に道を示す一方、ときに人としての道を踏み外させるほどのものなのだろうか?
 壁を塞いで、残った巨人を狩る段取りをつけて、確実に世界の状況はましになっているはずなのに、リヴァイのまわりは以前と変わらず、否、それ以上に景気の悪い顔ばかりになったように思われた。
「やあリヴァイ、悪いけど、君に黙って紅茶を少しもらったよ。どうしても眠気がとれなくてね」
 しけた面構えの筆頭が、このハンジだ。夜も遅くなってからすれ違ったのに、まだ兵団のジャケット姿でいる。
「憲兵と平等に分けるようになったからかな、前よりおいしくなったね。ハハ……徹夜がはかどるよ」
 エルヴィンに代わって団長になってから、以前の道化じみた言動がなりを潜め、そのくせ「そうだったとき」の自分を保とうとしているのがわかって、悪態をつく気も失せる。
「……勝手にしろ」
 以前、ハンジにはハンジなりの夢があって、そのために進んでいたはずだ。それがここのところ、団長という役職の重みなのか、それとも「世界のすべてが敵だった」という事実のためなのか、随分様子が変わっている。
「オイ、お前ら。まだ起きてたのか」
「……はい。サシャのところに差し入れを……」
 若い部下たちも、辛気臭い面だ。子供のくせに、地獄から這い出してきたばかりのような表情をしている。もっとも、その表現はあながち間違ってはいないのだが
「……なら、それが終わったら、とっとと寝ろ」
 リヴァイはため息をつく気も失せて、自分の部屋に引っ込んだ。

 ……大きな湖が見えた。対岸のない、広い湖。
 色はない。太陽の光が反射して、ただ真っ白に見える。リヴァイを育てた男
ケニーが、以前の王とともに眺めたという湖は、あるいはこのような風景だったのだろうか。
 いま、リヴァイは宿舎で眠っているはずだ。だとすればこの光景は、幻でしかない。自分の意志を持って選ぶ「目標」ですらない、ただの「夢」。
『海を見に行こうよ
地平線まで全部塩水
 記憶のなかで、少年の言葉がこだまする。未だ『夢』を見失っていない、未来を見つめる声。
『あのとき、おまえが私ではなく、アルミンを選んだのは……』
 背中から、声が聴こえる。もう、いなくなった者の声だ。
『彼が、より多くの人々のための、夢を見せてやれるからか?』
 この言葉は、自分の頭が作り出したものだ。つまり、リヴァイにとって都合よく解釈した、妄想だ。
 そうだとわかっていても、耳を傾けてしまうのは、リヴァイも何かを信じてみたいからなのか

 翌日、朝一番で、何やら書物や帳面を抱えて出かけるアルミンに出くわした。どうやら、幼馴染のところへ向かう途中らしい。
「また、懲罰房であいつらの面倒をみるのか?」
「えっ? あっ、はい……エレンが何か、情報と一致する記憶を思い出す可能性もありますし……」
 そう答える少年は、戸惑ってはいるものの、下を向いている様子はなかった。
 彼は、絶望的な現状のなかにもなお、希望を見出している
「あの……何か?」
「イヤ……何でもない。お前はそれでいい」
 アルミンがいずれ導くであろう、その「海」を見れば、しけた面の連中も多少は明るさを取り戻すのだろうか。
 夢のなかの「海」には、色がついていなかった。けれど、もしそこが実在するなら、理屈の上では、深い湖と同じように、空の色に似た色になるはずだ。
 それは、まばたきをして背を向けた、少年の瞳の色に似ているのかもしれない。あるいは、もう開くことのない、エルヴィンの瞳の色にも。
 
実際に見て、確かめてみればいい。それが調査兵団だ……
 過去の希望と未来の希望が交叉して、すぐ現実の曙光に消えていった。
(了)

ライナー・ブラウン
コニー・スプリンガー

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