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vol.02 モブリット・バーナー
2017.03.16 Updated.
 モブリットは生真面目な兵士であった。
 彼は「変革を求める」調査兵団の所属であり、彼なりの志はあるのだが、しかし周囲には比較的、常識人という認識で通っているようだった。
「……今日からこの隊の配属になりました、モブリット・バーナーです」
「ああ、よろしく頼むよ!」
 そんなモブリットがはじめて現在の上官に会ったのは、壁外調査を受けての兵員増減に伴い、人員を再編成したタイミングだった。

 その上官、ハンジ・ゾエについては、変わり者だという噂を聞いていた。遠巻きに戦闘しているところを見かけたことがあるが、謎の奇声を発している、という印象が残っている。
「どうだい、もう歩けないし何も見えないよ!? 君は大きすぎて連れて帰れないから、ここで倒さなきゃならないんだ。ごめんよ!」
 そして、部下として壁外で戦ったとき、前もっての印象どおり、ハンジは巨人に対し、まるで人間にそうするように話しかけていた。目をつぶし、腱を切ったその巨人を憐れむような言葉をかけてから、躊躇いなく急所を切り裂いたのだ。
「(聞いてはいたけれど……予想以上の人だな……)」
 とはいえ、配属されたからには、部下として補佐に務めなくてはならない。ハンジの視界の外でその足元に襲いかかろうとする小型の巨人を発見し、駆けつけて白刃攻撃を仕掛ける。
 急所をわずかに外してしまったため、再生しつつある対象にとどめを刺そうとすると、ハンジの声が降ってきた。
「ああモブリット、ちょうどいいのを見つけたね!腱を切って、持ってきた杭を打ち込んでおいてくれ!」
「はっ……!? り、了解しました!」
 言われるがまま、ほかの兵士とともに、モブリットはその巨人を拘束し、戦果として荷馬車で持ち帰ることとなった。

 調査兵団の活動の一環として、巨人の身体の分析を任せられているのがハンジだった。捕獲した小型の巨人に対し、痛覚や意思疎通の確認実験を行う。
「ふう……今回の子は元気だなあ。この調子で実験を続けるぞ、モブリット、記録を頼む!」
「……わかりました」
 変人とはいえ、上官は上官である。モブリットは規律を重んじ、ハンジの発言と行動とを、なるべく邪魔しないようにと努めていた。
 しかしその忍耐も、長くは続かなかった。
 数日の間、不眠不休で研究に勤しむハンジが、次々に倒れていく部下たちを尻目に、さらなる実験をはじめようとしたときである。
「よし……次はもう少し近くで話しかけて……」
「駄目です」
「えっ?」
 言ってしまってから、まずい、と思ったものの、口をついて出たものは止まらない。
「そろそろ眠らなければ。ハンジさんがどれだけ優秀でも、生きた人間である以上、眠らなければ反応が鈍り、取り返しのつかない怪我を負う確率が上がります。万一のことがあれば、調査兵団にとってどれだけの損失になることか、わからないあなたではないでしょう」
 一気にまくしたてて、これは罰を受けるだろうか、と不安になったが、言われたハンジのほうはきょとんとした後、ああそれもそうか、と、おとなしく従った。

「あのとき、ハンジさんは驚いていたんですよ、きっと。モブリット副長は、普段は物静かだから」
 ……随分あとになって、同僚に言われた。そして、彼の働きを見ていたエルヴィンも、似たようなことを言っていた。
「君は、ハンジの扱いに向いていそうだな」
「は、はあ……? そう、でしょうか」
「今後もあいつが危険をおかしそうになったら、遠慮なく言ってやれ。立場を気にしないのが調査兵団だろう?」
 実力者のお墨付きまで得てしまい、モブリットはためらいながらも、ついついハンジの行動に口を出すようになった。
「聞いてくれよ! 最近、効率がよくなったんだ。一日にやれることが目に見えて増えていてね」
「……疲労の匂いがしないな」
「適度に休んでるからだろ……管理してくれてる、副官に感謝するんだな」
「いえ、自分は当然のことを……って、ハンジさん! 近すぎます!」
 調査兵団の団長がエルヴィンに交代し、ハンジが分隊長という肩書を得て、モブリットがその副官という立場になってからも、両者の関係は変わることなく、リヴァイやミケら調査兵の重鎮ともよく話すようになった。
 
あの日、つい口をついて出たひとことは、モブリットが勤め上げる「副官」としての第一歩だった。
[了]

ベルトルト・フーバー
ナイル・ドーク

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