目次

Vol.15 嗜好品の流通(前編)
2015.08.20 Updated.
「エレン、この茶葉はお湯を入れてから1分半でカップに移すんだよ。茶器やカップは別のお湯で暖めておいてね」
「はい、ペトラさん」
 旧調査兵団本部、新兵としてリヴァイ兵士長の監視下に置かれたエレンは、先輩兵士の指導のもと、食後の紅茶を淹れていた。
「注ぐときは茶こしを使って、茶葉が入らないようにな。とくに兵長は神経質だから気をつけろよ」
 当たり前のように紅茶の知識を披露するリヴァイの部下たちに、エレンは首を傾げてみせる。
「……ところで、訓練兵のころは、紅茶なんて試験前くらいしか飲めなかったんですけど……」
「そっか。訓練兵の間は、品質のよくない配給品しかないもんね」
 ペトラの言葉に、エレンは素直に頷く。
「はい。調査兵になってから、品種とか、銘柄とか、色んな紅茶を見て……驚きました」
「そいつは、俺が優先して回させているからだな」
 遅れてやってきたリヴァイが、どっかりと席について、自分のカップを手にした。
「調査兵が、税金だけじゃなく……商人や貴族の金持ちどもに支援を受けてるのは知ってんだろう」
「はい。……あ、その中に紅茶の商人が?」
 兵長の功績もあったんだよ……と、横からペトラが耳打ちする。
「フン……調査兵のことを、茶の味もわからん、脳味噌まで筋肉でできた人間だと思っていた商人と、少し話をしただけだ」
 そのとき、リヴァイは自分のしたことをそれ以上は語らなかった。

 のちに、エレンはリヴァイの周囲の人間から、『人類最強』の男がいかにして、紅茶を扱う商人からの支援を取り付けたのかを聞く機会があった。
「紅茶っていうのは、基本的に南方で栽培される植物だからね。ウォール・マリアが突破されてすぐ高騰したのは知ってるだろ? そのとき買い占めをした茶葉商人が、成り上がって今も流通を握って、利益をあげてる。そこに目をつけたんだけど、なかなか難物でさ」
 エルヴィンやハンジが支援を要請しても、商人はなかなか首を縦に振らなかった。そこで珍しく、リヴァイが交渉の場に出向いたという。
『オイオイ……この店は、客に二年も前の茶葉の、それも粉(ダスト)になっちまったのを出すのか?』
「その一言で、商人の目の色が変わったんだって」

 調査兵団に支援をすることになるこの商人、実は当人もかなりの紅茶マニアであった。
 味がわかると見るや途端に態度を変え、すぐにその年の新茶、それも新芽だけを選りすぐった最高級の茶を出してきたという。
「兵長がその年の紅茶の出来の話なんかに付き合ってやったら、すっかり友好的になったらしい。そこを団長の話術で、『土地を奪還すれば広大な茶畑が商人のものになる』と約束して、支援者にしたわけだ」
「へえ……強いだけじゃなくて、知識も豊富なんですね」
「オイ……エレン」
「はい!?」
「この茶葉の抽出は90度で2分だと言ったはずだ。全てやりなおせ」
 ひととおり話を聞いて、また迎えた食後の紅茶の時間。エレンはぼんやりして、うっかり抽出時間を間違えてしまったらしい。
 厨房に戻る道すがら、手伝ってくれるペトラに、エレンは肩を落とした。
「あの、オレもああやって細かい性格になったら、強くなれるんでしょうか……」
「あんまり関係ないんじゃないかな? エレンはエレンの得意なことをやればいいよ」
 笑うペトラの隣で、失敗した茶葉を捨てながら、エレンは調査兵の上層部の仕事が多岐にわたることに、目眩にも似た縁遠さを感じるのだった。
[続く]

Vol.14 兵士たちのサバイバル(後編)
Vol.16 嗜好品の流通(後編)

※本サイト内の画像及び文章の無断転載・無断利用を禁じます