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進撃の巨人

Vol.15 ミカサ・アッカーマン
2014.09.18 Updated.
夢はこころの映し鏡だと、誰かが言った。
それは、残酷な日々を忘れさせる安らぎか、現実よりも過酷な深淵か。今宵の眠りがもたらすものは

「……ミカサって、笑いませんよね」
 訓練兵の宿舎、就寝前のひととき。
 サシャが首を傾げながら、ミカサの顔をのぞき込んでいた。
「意識してるわけじゃ、ない」
「一度、思いっきり笑ってみたらどうですか? ほら、口をにーっとして」
 口の両側に指をつっこみ、無理矢理広げようとするサシャ。ミカサがその手をはたこうとする前に、傍を通ったアニがぼそりと言った。
「削がれるよ」
「ひい!?」
 慌てて手を引っ込めたサシャに、アニは言う。
「笑いたいときなんて、人それぞれなんだ。放っておいたら?」
「そうですけど……」
「(笑いたい……とき)」
 ミカサは口元を拭いながら、自分の表情について考えていた。
「(確かに……めったに声を上げて笑わないような気はする、けれど)」
 消灯し、天井を見上げていても、先刻のやりとりが気にかかる。
「(いつから……?)」
 訓練に支障はないとはいえ、改めて指摘されると異質なことのようにも思える。無愛想といえばそれまでなのだが、ミカサ自身で己の性格をそのように考えたことはなかった。
「(子供のころは……違ったような……)」
 訓練の疲れでぼんやりしてきた頭で、ふわりと呟き、少女は目を閉じる。
「……私の、笑えるときか」

『ミカサ。野菜の収穫、お願いね』
『(お母さん!)』
 明るい空が広がっていた。
 自分の目線が低く、子供なんだとすぐにわかる。少女のミカサは、麦わら帽子に、ワンピースを着ていた。
 そんな彼女に、懐かしい声がかかる。
『ほら、捕ってきたぞ、今日は鳥肉だ』
『流石ですね、アッカーマンさん』
『(お父さんと、……イェーガーのおじさん?)』
 自分の両親がいる、実家。そこに、その後世話になった人物の姿を見て、はじめミカサは不思議に思った。
『コラ、エレン! いま、つまみ食いしたろ!』
『イテッ! ぶつことないだろ!』
『(エレン! それに、おばさんも)』
 畑のほうを振り返ると、さらに不思議で、それでいてとても幸福な景色があった。少女が大切にしている人々、その日常。
『ハハハ……元気でいいじゃないか』
『ふふっ……』
 父の笑いにつられて、少女の口からも笑みがこぼれる。
『何だよ、ミカサ。人が怒られてんのに、笑うなよ!』
『ふふふふふっ……だって……!』
 純粋で、血の匂いも世界の残酷さも知らない少女が、満面の笑みを浮かべて皆に笑いかける。
『(だって、家族がみんな揃ってる!)』

「……オイ、誰か絵の上手いヤツ呼んでこいよ、似顔絵描いとこうぜ」
「もう、ユミルってば、せっかくミカサがいい夢見てるんだよ? 起床までまだ少し時間があるし、そっとしておいてあげようよ」
 ……ミカサの笑みは、うっすらとわかる微笑みとして、寝顔からも見て取れた。
 驚きの目で見守る同期たちが、低い声で囁きあう。
「よほど楽しい夢なんでしょうね。お肉の夢かなぁ」
「サシャじゃねぇっての」
「だって、誰でも好きなものを見ると、笑顔になるでしょう?」
「好きなもの……ねえ。何なんだろうな」
 その答えは、少女の夢と胸のなかにだけ。 差し込む朝の光が、彼女のひとときの幸福な幻をゆっくり消そうとしていた。
(了)

Vol.14 モブリット・バーナー
Vol.16 ミケ・ザカリアス

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