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進撃の巨人

Vol.19 ライナー・ブラウン
2014.10.16 Updated.
夢はこころの映し鏡だと、誰かが言った。
それは、残酷な日々を忘れさせる安らぎか、現実よりも過酷な深淵か。今宵の眠りがもたらすものは

 訓練兵たちが訓練を終え、宿舎に戻る途中。
「あっちの駐屯兵、何してんだ?」
「きっと、明日が非番の班だ。飲みにでも繰り出すんだろ」
 目に留まった遠くの先輩たちに、コニーが気づく。そばに居たライナーが、彼らの向かう先のトロスト区を指した。
「へえ、いいな」
 見送るコニーに、アルミンが冷静に言う。
「僕たちも、酒場で食事くらいできるよ。昔の訓練兵には、酒場の娘と結婚した人がいるって」
「なんでそんな噂知ってんだよ」
「偶然、教官方の噂話で」
 そういうのじゃねえんだよ、と割り込んだのは、ジャンだ。
「なんつーか、仕事帰りに一杯、みたいなのが楽しそうじゃねえか。なあライナー?」
「ああ、そうかもしれんな」
 その日の男子寮は、酒の話題になった。
「昔は、駐屯兵や憲兵がうまそうに酒飲んでたよな。最近減ったけど」
「人類の活動範囲が減った分、材料にする果実や穀類の畑が減ってるからね」
 エレンやアルミンが言うと、コニーが羨ましそうに返す。
「でも、たまの休みくらい、飲みたいよな」
「ハハッ、コニー、お前おっさんみたいなこと言うんだな!」
 ジャンが笑えば、マルコも微笑む。
「だけど、皆が好きなだけ酒を飲んだらどうなるか、興味あるよ。ベルトルトなんか、案外酔うと饒舌になったりして」
 マルコに話を振られ、黙って聞いていた少年は慌てて否定する。
「えっ!? な、ならないよ、多分」
 その様子に、一同が笑った。
「そうだ、俺たちがおっさんになったら、また皆で集まって酒飲もうぜ。死に急ぎ野郎にも憲兵になったら俺が奢ってやるよ、生きてりゃな」
「奢られなくても、俺は巨人を死ぬほどぶっ殺して、ジャンより稼いでやるよ」
 ほら、ケンカしない、と間に入ったマルコが、皆に笑いかける。
「それぞれ歩く道は違うかもしれないけど……生き残って、集まりたいね」
「ああ、面白そうだな」
 ライナーは楽しげに、その話題を続けていた。

『おーい、ボトル一本追加だ!』
 ぼやりと霞む、酒場の景色。ライナーはわいわいと酒を酌み交わす、同期たちと一緒にいた。一緒になって、はやし立てる。
『よっし! ジャン、歌えー!』
『ハッ、俺の美声を聞いてビビるなよ!』
 顔を真っ赤にしたジャンが、やたらと良い声で歌い上げる。
『おいエレン、次あれやれ! 巨人化!』
『よし……って、こんな所でできるか!』
 酔ったコニーに肩を組まれて、エレンが手を出し、はっとしてやめる。
 ライナーはうきうきと楽しくなって、つい声を出した。
『おっ? その芸なら、俺たちも……』
 と、同郷の友を探す。
『……ダメだよ』
 ジョッキを持ち上げたライナーの腕を、ひんやりと冷たい手が掴む。
 それは、青ざめた顔のベルトルトで……
『僕らには』
『ベルトルト?』
『この酒は、飲めない』

 ライナーはカッと目を見開いた。
 ……深夜だ。まだ、夜明けには遠い。
「うぅ……」
 近くで眠る、ベルトルトの呻きが聞こえる。寝相の悪い彼が、苦しげに声を漏らす。
「ごめ……ごめん……」
「ッ!」
 彼のうわごとに、ライナーはぞくりと震える。
「(……そうだ、俺には)」
 ゆっくりと身体を起こし、部屋で眠っている同期を見渡した。
「(こいつらと未来を思い描くことは、できねえ)」
 彼の瞳が、鋭い輝きを宿す。
「(……悪いな)」
 それでも縋りたい絆を振り払うように、ライナーは頭を振り、暗い眠りへと落ちていった。
(了)

Vol.18 キース教官
Vol.20 カルラ・イェーガー

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